65歳からの年金について、将来増額してもらう方法があります。65歳以降も勤務を継続した場合、給与があるため年金はもらわずに、退職した時に増額した年金を受給しようと考える方は多いです。しかし退職後に請求してみたら、思っていたほど増えていなくてガッカリということがありました。なぜ増額しなかったのか?その原因をみていきます。

Details

目次

繰下げ制度とは?

65歳から受給する老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)があります。
繰下げというのは、この65歳から受給する年金をもらわずに66歳以降に
増額してもらうというものです。

以下3通りの繰下げ方法があります。

①老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を繰下げ
 65歳からの年金のどちらも受給せず、両方を将来増額して受給する。
②老齢基礎年金は65歳から受給し、老齢厚生年金だけを繰下げ
 老齢厚生年金だけ将来増額。
③老齢基礎年金だけを繰下げし、老齢厚生年金は65歳から受給する。
 老齢基礎年金だけ将来増額。
 

どれだけ増える?

1か月に0.7%増えます。最大10年75歳まで繰下げ可能で、
1年(12ヶ月)繰下げて0.7%×12月=8.4%増
5年(60ヶ月)繰下げて0.7%×60月=42%増
10年(120ヶ月)繰下げて0.7%×120月=84%増

65歳から5年繰下げて70歳からの繰下げ請求すると142%の年金受給です。

1か月0.7%増ですが、1年経過する66歳までは繰下げ請求はできません。
66歳前の繰下げ請求は不可ですので注意が必要です。
66歳以降は1か月単位で請求できます。

例えば、66歳1か月(0.7月×13月=9.1%)で受給したい!
もちろん請求可能です。

66歳前の繰下げ請求は×なので、通常の65歳へ遡りで受給となります。

70歳での繰下げ事例

事例をみていきましょう。
65歳からの年金額が以下のように受給の方がいます。

老齢基礎年金(795,000円)
老齢厚生年金(1,200,000円)
合計:1,995,000円

65歳から繰下げせずにもらう場合は年額1,995,000円です。

70歳まで繰下げた場合は、
5年(60ヶ月)繰下げて0.7%×60月=42%増
老齢基礎年金 795,000×42%=333,900
       795,000+333,900=1,128,900
老齢厚生年金 1,200,000×42%=504,000
       1,200,000+504,000=1,704,000
合計:1,128,900+1,704,000=2,832,900円

70歳まで繰下げした場合、年額837,900円の増額です。


なぜ思ったように増えなかったのか?

タイトルに戻ります。
事例と同じ年金額の方(仮にAさんとします)が、
65歳以降も厚生年金加入で勤務を継続していました。
給料があるため、65歳からの年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)は
繰下げを希望して、将来増額した年金を受け取るプランでした。
その後、70歳で退職したので、予定通り繰下げ請求をしました。
上記のように、42%増になるものと考えて支給を楽しみに・・・・・

しかし、実際の年金は、

老齢基礎年金 1,128,900円
老齢厚生年金 1,200,151円
       
合計:1,128,900+1,200,511=2,329,411円

老齢基礎年金は42%(333,900円)増ですが、
老齢厚生年金は151円しか増えていません。

???

在職者で報酬高い人は要注意!

老齢基礎年金は42%増ですので、老齢厚生年金について
考えてみましょう。

Aさんは月65万円の報酬をもらっていました。
厚生年金も引き続き加入していました。

Aさんの老齢厚生年金の内訳として、
報酬比例部分:1,199,640円  ・・・報酬との調整あり
差額加算:360円 ・・・報酬との調整なし(報酬に関係なく支給)
合計:1,200,000円

厚生年金加入中の場合、報酬比例部分は在職老齢年金として、
調整の対象になります。
よく言われる『給料と年金を合計して、48万円超えたら調整される』!
というあれです。

具体的には、48万円を超えた部分の1/2が支給停止されます。
報酬比例額:1,199,640×1/12=99,970円
報酬月額:650,000円
99,970+650,000=749,970 >480,000
749,970-480,000=269,970 超えた部分の1/2が支給停止
269,970×1/2=134,985  支給停止額
99,970-134,985=▲35,015 ▲なので報酬比例は全額停止




Aさんの65歳から受給できる厚生年金は差額加算のみ!

報酬月額65万円のAさんは報酬比例は全額停止で、
差額加算の360円(年額)しか受給できません。

65歳から受給できる厚生年金は差額加算の360円で、
繰下げした場合は、この360円に対して増額していきます。

繰下げ増額は、元々の年金額(1,200,000円)に対してではなく、
実際に受け取れる受給額(360円)に対して増額します。

360円×42%=151円 繰下げ増額分

年金額と実支給額

年金額(1,200,000円)に対して増額するものと考えていたAさんは
ガッカリです。

1,200,000円×42%=504,000円増額と思っていたのが、
360円×42%=151円しか増額しないのはショック大ですね。

繰下げの増額対象は、年金額に対してではなく、
実際に受給できる支給額に対してということです。

厚生年金加入して報酬の高い方は年金額が調整されるため、
実際の支給額が少ない場合は、繰下げ増額のメリットは
あまりないということになります。

実支給額でなく、元々の年金額に対して増額すべきでは?と
いう相談を受けたことがありますが、そうなると報酬高い人は
65歳から受給すると在職年金で停止されるけど、
繰下げ請求したら元々の年金に増額されるということになり、
それならと全員繰下げを希望するでしょう。

繰下げNGの場合あり

繰下げ希望したけど、実はできなかった。

遺族年金など、他年金を受給している場合は
繰下げ請求ができません。

こんな事例がありました。

繰下げ希望していた男性(Bさんとします)がいました。
68歳になり繰下げ請求をしたところ、年金事務所で請求不可とされました。

実は、4年前に奥様が亡くなられて現在は単身でした。
その当時、遺族年金の請求をしても、Bさん自身の厚生年金があり、
選択により遺族年金はもらえませんでした。
支給されないなら請求しても意味がないと請求をしていなかった。
年金事務所でも請求しなくていいですね。と言われたそうです。

いざ68歳で繰下げ請求したときに、遺族請求ができる方ですので
繰下げ請求不可とされました。
3年分の繰下げ増額を期待していたのに・・・

本人にしてみたら、
・遺族請求していない
・遺族請求してももらえない
・年金事務所から請求しなくていいと言われた
・繰下げ請求不可という説明はなかった

Bさんは65歳時に年金事務所に繰下げの相談をしており、
その時に繰下げしようと3年間もらわずに増額を楽しみ
にした結果がこの結末でした。

納得できませんでしたが、結局65歳からの増額なしの
年金を受けざるを得ませんでした。

遺族請求していないのなら、繰下げを認めるべきでしょう。
不可というのなら、妻死亡時にきちんと請求を案内するべきです。

まとめ

繰下げの事例をみてきました。

最近は厚生年金加入中で、65歳から受給せずに将来増額して
もらおうと考えている方が増えています。

増額は年金額ではなく、実際の支給額に対して
というところが注意点です。

まずは65歳以降、厚生年金加入の場合の実際にもらえる年金を
試算してもらい、その場合に繰下げしたらどうなるか?
このように相談することをおすすめいたします。

繰下げを考えていたけど、やっぱり65歳時に遡ってもらいたい!

その時の状況で、繰下げ増額の年金をもらうか、
増額しないが、65歳時に遡って年金をもらうか。

あらためてどちらにするか判断することが可能です。
ご自身のライフスタイルに応じて、受給の方法を
ご検討ください。